パネリスト
日下部 治 氏
東京工業大学大学院理工学研究科 土木工学専攻 教授、土木学会副会長、NPO法人国境なき技師団理事、専門:地盤工学 研究キーワード:粒子破砕、基礎設計、物理モデル等、土木学会論文賞、地盤工学会功労賞、「土と基礎」年間優秀賞、国際貢献賞他受、賞、地域づくりの活動については地域経営アドバイザー養成セミナー等で「地域経営の視角とマネージメントの実際」、土木学会誌で専門技術者資格への提言を行っている。
清野 茂次 氏
NPO法人温故創新の会理事長、潟Iリエンタルコンサルタンツ相談役名誉会長、技術士(建設部門)、工学博士、土木学会特別上級技術者、土木学会名誉会員
科学技術創造立国を実践面で支援するため、第一線を退いた技術者が保有する知識・技術・ノウハウを次世代に継承することを中心テーマに、首都圏を中心に指導、助言、講演等の活動を展開している。それまでの建設コンサルタントの発展における貢献が認められ黄綬褒章受賞を受賞した。著書に「インフラコンサルタント物語 −土木技術者として生きた50年−」
濱田 政則 氏
NPO法人国境なき技師団理事、早稲田大学理工学術院教授、土木学会前会長、地震工学会次期会長、日本学術会議会員 専門:地震工学、防災工学
大成建設梶A東海大学海洋学部教授を経て現職。早稲田大学で地震・防災工学を指導する傍ら土木学会等の委員会で国内外の地震被災地を調査し、地震防災に貢献している。また海外調査を通じ、地震防災の我が国の高い技術力を海外で役立てるため、上記NPOの設立を提唱し、建設技術者を募り多彩な活動を展開している。
花村 義久 氏
NPO法人ITステーション「市民と建設」理事長、鞄本技術開発監査役、国士舘大学非常勤講師、工学博士、技術士(建設部門)
市民参加による国土づくり、まちづくりの推進・支援を中心テーマに活動するとともに、地元船橋では、船橋市行政パートナーとして市民協働の仕組みづくり・推進、NPO法人サポートふなばし理事として音楽のまちづくりなどを行っている。著書に「グラフィックソフトの標準化体系とインプリメント事例」(監修、執筆)
コーディネーター
大林 成行 氏
NPO法人地域と教育の文化を考え・行動する会代表、NPO法人「 E&Cフォ
ーラム」理事長、東京理科大学名誉教授、中国新彊大学名誉教授、香川短期大学客員教授、工学博士(東京大学)、技術士(建設部門)、特別上級技術者(総合、土木学会)
建設コンサルタンツ、東京大学生産技術研究所等を経て、2002年3月まで東京理科大学理工学部で教授、研究所所長を歴任しながら地形情報処理工、土木計画学、建設ロボット、リモートセンシング等の分野で研究と教育に専念する。現在、内閣府総合科学技術会議のフロンティア分野PT委員や国土交通省の建設工事事故対策検討委員会委員、技術研究開発評価委員会委員、大規模自然災害時の初動対応における装備・システムのあり方検討委員会等を兼務しながら、香川県環境アドバイザーなどを通じて地域の活性化活動に専念している。
<討議要旨>
1. どのような趣旨、内容のNPO活動をしているか順次発言。
清野氏:団塊世代の大量退職によって戦後激動期の新しい国づくりに積み重ねられた貴重な技術が途絶えることを心配して、07年に「温故創新の会」を24人で創設した。まだ実績は多くないが、我々は土木に限りない魅力を抱き、何も無いところから計算尺、三角スケール、そろばんですべて工夫して作り上げた。IT時代の今の若い世代の発想とは違うところが多いが、参考になることが多いはずだ。計算尺は3桁の世界で、コンピューターよりはるかに桁が少ないが、土木にはむしろ全体を把握したり限界を見極めたりするのに都合がいい、と強調した。
花村氏:公共事業の多くが市民の反対運動でスムーズに進まず、行革論議の中でマスコミがしきりに公共事業不要論を展開することに強い疑問を感じ、建設技術に携わる民間技術者仲間で「ITステーション『市民と建設』」を立ち上げた。当面、行政への市民参加を進めるお手伝いに最も力を入れている。毎年1回識者やNPO関係者を招いてフォーラムを開き、社会基盤整備にあたってどう市民の合意形成を進めるか、などのテーマで討議。公共事業の重要性、魅力を知ってもらいたく、地域ごとに市民アンケートで「橋の魅力百選」を選んだり、身体障害者施設のバリアフリー度を調査評価したりしている。また、学校が地域の拠点にな
るよう、校庭開放校での芝張りやビオトープづくりを子どもや父兄と一緒に楽しんでいる、と活動を紹介した。
濱田氏:「国境なき技師団」について報告。土木学会からスマトラ沖地震・津波の被害調査に出かけた際、住民の4分の1が亡くなったアチェ町の惨禍があまりにすさまじいのに呆然としてしまった。災害に対して研究者もこれからは被災地への直接的な支援に踏み切るべきではないかと考えていた折だったので、土木、建築学会有志に諮りNPOとしてスタートさせた。国や関連機関の支援を受け国内とアジアを中心とした海外の自然災害による被災地復旧、復興支援、耐震診断、防災教育、政策提言などに約130人が参加している。活動の持続発展には若い世代の参加が不可欠なので、早大と京大生に防災教育支援会をつくってもらって協働している。海外でアジアを中心にしているのは、20年間の自然災害による世界中の死者約80万人の8割以上がアジアで占められているからだ、と説明した。
2. NPOを設立運営する上での困難
パネリスト:
・財政的な困難により組織整理が遅れている。
・海外に行くときの安全の問題
・若い人が忙しい時代のため継承してもらえる人がいるのか。
・連携がなければできない(ex 防災問題などは社会問題と同時にやらなければ
ならない。連携なしではなしえないこと)
・土木という大きな分野に対して自分たちの数が少ないため、連携することから始まる。
・公共事業を相手にすることは、個人で支援をお願いするより集団の方がいい。
3. 省庁が災害地へ派遣することについて、
国民は各団体の連携がとれているのかという見方をしていることについて
パネリスト:
・地域の幸福論を考えなければならない
4. 日本政府が災害地へ派遣、連携について
パネリスト:
・多すぎる災害地への派遣。国交省や外務省、他それぞれの組織がバラバラに実施
という方向になってきている。
・それぞれの行政がもっている目的意識の違いを認識しあい、それをまとめる体
づくり、つまり連携によって解決度が増す。
・協定を結んでいる行政もある。そういう事例を積み重ねていかなければならない。
5. NPOにおいて、どうすればベテラン技術者に活躍してもらえるか
パネリスト:
・ベテラン技術者はたくさんいるが、NPOに積極的な人は少ない。
・具体的な話になり責任論までの話になると、仲間が減っていく。
6. NPO運営の上でどの様なことに気をつけていけばいいか
パネリスト:
・ベテラン技術者は意外と自分の才能、技術、経験、知識を活かしていない。
・もともと建設技術者でも、その技術や経験、知識が活かされることのないNPOに
参加しているケースが多い。
・資質よりも変わることが大切。
価値観を変えるくらいしないと地域に入っていけない。
・名刺などにこだわるのは逆に恥ずかしいこと。
・日本の優れた技術者で能力を活かしたいと思っている人は多いけれど、
地域社会の浸透ということでは欠ける面がある。
海外へ技術普及に行っても、やや地域連携に欠けるなど。
・コミュニケーションの不得手は教育の怠慢によるものとし、見直されてきている。
・市民が行政に失望している部分がNPOに期待される部分なのだろう。
7. ベテラン技術者は能力と関係のないNPOに所属していて、誇りを維持できるのだろうか
パネリスト:
・ベテラン技術者だからどこへでも行けるわけではない。
・地域に根を下ろす、自分たちが地域をつくるという、技術を活かす土俵はできているのでは。
・プロフェッショナルを地域の財産として大切にしていくべき。
・地域をよく知っている人をリーダーとして、活躍してほしい。
・海外渡航をお願いすると本人は良くても、家族が反対ということもあり。
8. それぞれの地域のキーマンは既にいるのでしょうか。
パネリスト:
・知識レベルの高い人に「市民活動したいですか、ボランティアしてみたいですか」
と尋ねたところ、YES60%、うちやっている人10%、過去にやったことのある人20%という割合。
・やりたいと思っているけれどやっていない、というのが現状。
・やりたい人を吸い上げて行って、社会に貢献すべき。
・コミュニケーション能力あるキーマンがいると栄える。
・組織的に何かを展開するとなるとなかなかうまくいかない。
・支部を作っていきたい。
9. 今後の地域の問題
パネリスト:
・個人対象でも企業対象でも出前講座を開いて、継続すれば運営資金が集まる。
会場の意見:
・税体系を変えなければ。
・地方自治体にしても、住民が駄目になる金遣いをしてもいいのか。
・お金の配分を医療などに使うべき。
・道路特定財源、年金にしても、官が民のために働いていない。
・無報酬という運営ではダメだと思う。利の体系をつくっていかなければ。
単なる慈善活動では先がないのでは。
・今は力学もわからない若者もいる。教育の見直しが大切。
パネリスト:上記会場の意見に対して
・資金の運用は大事な課題。基本的に日本では寄付の土壌が少ない。
寄付の土壌をつくり、どうやって調整していくかがこれからの課題。
そのためにも税制が変わらないといけない。
・建設系NPOなので建設産業に支援していただきたいが、建設産業も社会貢献
などと掲げているけれど、実際ほとんどの会社が支援金を出さない。
我々の活動が建設産業に役立つメリットがなければ、支援金を出さないのも当然
のことである。
・スマトラの地震で現地へいたときに、建設産業との連携がとれなかったばかりに、
最初に企画を提案したにも関わらず、実行にあたってアメリカに先を越されたことがある。
連携することにより、そういった情報も共有して日本全体のメリットにしていかなければならない。
・世論を管理するため、マスコミとの懇談会など、マスコミを利用して発信していきたい。
10. 運営資金調達方法について
コーディネーター:
資金問題について、支援を個々のNPOで申請すると難しいが、県全体のNPOで申請するとそうでもない。また、指定寄付という制度で寄付は受けやすくなるなどありますが。
パネリスト:
・資金問題については苦しい。
・日常はボランティア、企業に申請。
・いつまでも支援に頼るべきではない。
・採算のとれた形を基本として行きたい。
11. 成果をあげることの幸せを伝えることができるか。
コーディネータ:
NPOの活動方針を伝える理念はあるか。
パネリスト:
・自己実現できる場をつくり上げていきたい。
・自己実現は、職業の延長でなくていい。
・特に若い世代に仲間と刺激しあい成長する喜びを伝えたい。
・活動内容を伝えることは重要。HPなどに頼ってばかりでなく個人的な接触の
中でも広めていきたい。
・報告会、セミナー、マスコミを利用、地道にやっていくしかない。
会場の意見:
・今回のようなフォーラムは1回だけでなく、継続が大切。
・今回のお話を聞き、NPOはベテラン技術者のためだけにあるのかという気がした。
若い方がやっている成功事例をもっと教えていただきたい。
・公正さ、社会的に認められるためにも公の立場か民の立場か、NPOの立ち位置を
はっきりしておかないと信頼が失われる。
パネルディスカッション総評
最大の課題として共通していたのはやはり、活動資金の不足。公的支援を受けている「国境なき技師団」にしても、国などの予算が単年度主義なので長期計画が立てられないこと、建設関連産業からの支援も海外向けとなると不況のせいばかりでなく熱意が足りないと訴えていた。
建設分野は極めて幅広い割りにまだNPO活動が多くないこと、同志が集まりにくいこと、特に若い世代の関心をどうひきつけることで苦労している点も各団体の悩みだった。失われそうな建設技術の伝承に力を入れようとしても若い世代にその価値を理解してもらうこと自体に苦労するとの声も出ていた。
したがって、活動の持続発展にはまず同様分野の連携が決め手になるとして今度のシビルフォーラム企画になったことが披露された。同時に、行政だけでは住民の多様できめ細かいニーズに対応し切れなくなっている現状では、多様なNPOの連携が地域の幸福にも不可欠になっていることが指摘された。
同様に行政とNPOの連携も重要なことが改めて確認されたが、行政側にNPOを安上がりな下請け視する態度がなくならないどころか増えているところもあること、中国・視線地震の復旧・復興支援など各省庁がばらばらに手がけているなど連携が足りないこと、海外で積み重ねたNPOや民間企業の支援実績が国のフォロー不備で日本の評価につながらないことなどへの不満が相次いだ。
一方、NPO活動の盛り上がりには参加者の自己実現が大きな力になることは各団体が再確認したが、会社人間が定年後にいきなり地域活動をしようとしても無理があること、会社での肩書きや過去の実績に対する誇り驕りが強すぎるケースが依然少なくないことなど参加者の意識改革の難しさもしばしば問題とされた。
しかし、少子高齢化や経済危機など国や地域の課題も山積している折、国づくりまちづくりで専門的知識・経験を持つNPOの役割はますます高まると予測されている。特に、戦後日本の国土経営を仕切ってきた全国総合開発に代わる新しい国土形成計画がスタートし、NPOも重要メンバーとなる「新しい公」が地域計画の主役になる流れとなった今日だけに、今後ともお互いにシビルフォーラムでの連携を深め、新たなメンバーも増やしていきたいという点で意見一致した。
|